『永遠の0』   百田尚樹 著

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)


【所感】

・読みやすくて、面白くて、一気に読んでしまった。ちょっと凄いかも。受賞するのもわかるかも。途中、地図みたりとかしてたから、時間的には、5時間とか。

・メインの舞台は、太平洋戦争時の海軍航空隊、ゼロ戦とか特攻隊。

・特徴のひとつは、作品の作り方か。孫が自分のルーツを探る、といったちょっとした謎解きみたな仕立て。気持ち、セカチューっぽいか。その謎解きを中心に、作者が放送作家だっただけに、テレビドラマ化を意識したのか、12章あって、それが、ちょうどいい区切りになってる。もちろん、表現も読みやすい。時代背景や技術的なことを知らない人にもわかるように入ってる解説がなかなか絶妙。戦争を知らない、現代を生きる孫に、戦争の生き残りが語るという仕立ても、この辺の背景解説に一役買ってる。

・もうひとつは、90年代くらいか、00年代以降の太平洋戦争物、特に映画になってるのは、だいたい、この流れであるけど、現場側で戦争に参加した人達で良い人・ピュアな人って、いろいろあるけど、天皇がどうのとか、大東亜共栄圏がどうの、というよりも、最後は家族を守るため、という動機付けで、こんな感じだったんじゃね?というのは、踏襲してる、か。そういう意味では、『男たちの大和』とか同じ文脈なのかも。でも、その愛の物語として、ほかの戦争物より、よくできてる、その辺も、放送作家さんらしい気もする。というか、愛の物語のほどよいスパイスに、太平洋戦争がある、といった感じか。

・でも、たぶん、太平洋戦争物で、これから描かないといけないのは、この愛の物語よりも、メディアと大衆、かなー、とか思った。政府首脳、政治家、官僚、軍人の上層部の話は結構あるのだけど、その下というか、ミドルとか現場よりのあたり。メディアを含めて、その雰囲気を形成してる層。その空気を形作ってた人達というか。それに迎合してた人達というか。もっといえば、政府とか軍人に加えて、市中の人とかもかなー。戦前の日比谷焼討事件の参加者とか、戦中に、お国のため、天皇陛下万歳って、腹の中では笑いながらやってた人、さらに他人に強要までしてた市中の人、戦後は、マッカーサーに手紙書いたような人(の一部)。『硫黄島からの手紙』の二宮くんの役とか、近しいか。でも、コンテンツとしては、映画はもちろん、小説とかでも、地味だから、成り立たないかも。

・特攻作戦が続けられた理由は、やっぱ、ここでも、ちょっと腑に落ちない。なにかで、読んだのが、当時、海軍の偉い人の次のレイヤーくらいの人が、ミッドウェー後に、もう無理だとおもって、でも、自分が上申しても戦争が終わるわけでもなくて、逆に、自分が軍法裁判にかけられちゃうから、特攻という作戦でもなんでもないことをやって、新聞でその活躍?!を大きく出せば、いつか陛下の耳にはいって、海軍がこんなことをやってるようじゃ、もうダメなんだな、戦争、止めろ!って言ってくれるというのを期待して、それまで続けたし、その成果?は、必ず新聞に出した、というのが、意外と本当なのか、と思う今日この頃。

・もし、これが特攻を継続し続けた理由だとしたら、現代の大きな組織で、つぶれそうなところ、とかと、全く同じだなー、とか思うし、同じだなー、と思うからこそ、ありえるかも、と思う。現代日本での、大企業でやばいところが、やばいままに変われないのとか、地方の疲弊とか、公務員がダメダメなのとか、全く同じ構図なんじゃかいか、とか。