『砂のクロニクル』   船戸与一 著

砂のクロニクル〈上〉 (新潮文庫)

砂のクロニクル〈上〉 (新潮文庫)

砂のクロニクル〈下〉 (新潮文庫)

砂のクロニクル〈下〉 (新潮文庫)

 
【所感】
・例のごとくの船戸作品。今回は、1980年から91年のイランを舞台としたクルド人の物語。この時代のイランを知りたい初学者とかに良い一冊。
 
・今、かなりホットなイラン。イスラム革命も、イランイラク戦争も、その前史も、その後も、ほとんど知らない、というか、知る機会が無かっただけに、かなり新鮮。もっと知る機会があるべきエリアな気がする今日この頃。今、ホットになってる理由が、詰まってる一冊とも言えるかも。
 
イラク問題とか、トルコ問題とかで、耳にする機会が多かったクルドという民族。せっかくの機会なんで、あれこれ検索してみると、2000万人超いて、国家をもたない世界最大の民族だとか。民族国家があっても、そこから出て行きたい人が多い国もある昨今、常にマイノリティとしての悲哀を背負うクルド人。そろそろ国家という制度の機能も限界か。それでも、自らの国家を求めるんだろうか。国家を飛び越して、その次のステージに行くのか。
 
・ソースが船戸作品に偏っているけど、船戸作品に出てくるような民族問題を抱える地域は、本作も同様に、だいたい、帝国主義時代のイギリス、冷戦構造化の米ソ、たまーに、中国、のどこかが、もしくは、全部が、なんかしてる。だいたい、問題の端緒にイギリスが絡んでて、冷戦構造下で、米ソがチョッカイを出して、冷戦構造終盤から絡んでくる中国、といった感じか。そういう意味では、石油利権、イスラム教vsX教、イスラム教内対立、ロシアの近所、などなど、単純な民族問題では決してなくて、世界で最も難しい民族問題かもしれん。
 
・日本も、明治維新と、その後のいつくかのラッキーが無ければ、今頃は、世界で1億人もいる国家を持たない民族となっていたのか。最後の大ラッキーが無ければ、アメリカより先にソ連が日本を占領していたら、それに近い状態になっていたかもしれん、とか思うと、そら恐ろしい。そんな現代において、自分はどうしていたのか、本作のクルドゲリラのように戦っていたのか、マジョリティーに従っていたのか。
 
・しかし、Wikipediaって、なんでも載ってるのね。インターネットのおかげで、歴史の勉強って、楽にできるようになったなー。昔みたく、重い資料集とか、もう要らないよね、きっと。