『アヴェンジャー』   フレデリック・フォーサイス 著

アヴェンジャー〈上〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈上〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈下〉 (角川文庫)

アヴェンジャー〈下〉 (角川文庫)


【所感】
・いやー、面白かった。複雑だったけど、一気読み、してしまった。翻訳の問題か原作の問題か、前後を読み返さないと???な箇所が結構あった。複線とかそもそもの話が複雑な話ということもあるけど。とはいえ、そんな事も気にならない、見事なスパイ・サスペンス。なんか、心地いい読後感。話が、グロイ部分もあるのに、なんでだろうか。フレデリック・フォーサイスさんの本、もういくつか読んでみるかな。
 
・一連の船戸作品と、似たような位置づけ。
 
・主な舞台は、90年代内戦時のボスニアベトナム戦争、戦後のアメリカ、バナナ共和国。細かい固有名詞は別として、きっとこんな状況だったんだろうなぁ、と。ユーゴの内戦は、まったく知らなかったので、ちょっとビックリ。こんなヒドイ内戦だったのか、と。
 
・登場人物のCIAのやり手(デヴロー)のテロリズムの考察が気になった。これって、一般的なというかアメリカの共通認識なのかな?ついでに、そのやり手に語ったイギリスのスパイマスターの言葉も、シンプルでわかりやすかった。この言葉が真理だとしたら、宗教が強い地域で、こういった動きが多いのは、逆に興味深い。だいたいの宗教で、嫉みとかそういった事って、戒めてそうなのに。



【デヴローのテロリズムについて考察】

テロリズムとは、かつてフランスの黒人精神科医で社会思想家だったファノンが”地に呪われたる者”と称した人々の貧困や欠乏から発したものだという、西側世界で従来唱えられてきた、ほとんど泣き言に近い見方は、まことに便宜的で、”政治的に正しい”―ということは、きれいごとにすぎる―たわごとだということである。
 
・(古今東西の)テロリズムを産んだのは、楽な生活を送り、高等教育を受けた中産階級出身の理論家であり、彼らの心は傲慢きわなりない虚栄心と恣意性で手前勝手な欲望にむしばまれている。
 
・(古今東西のテロリストを研究した結果、)このデヴロー理論によると、レストランに爆弾を仕掛けろと部下に命じて、その結果生じる悲惨な地獄絵を想像して満足げに微笑むことのできる連中には、共通点が一つある。限りなく憎悪を再生産できる悪魔的な能力をそなえているという点である。そういう遺伝子を所与のものとして持っているのだ。まず、憎悪があって、ターゲットはあとにくる。この順序が変わることはほとんどない。
 
・いかなる場合でも、まず憎悪が先にあり、次に原因、ターゲットがあり、それから方法がきて、最後に自己正当化がある。そうすると、レーニンのいう”役に立つ愚か者”が必ずそれを鵜呑みにしてくれる。


 
【左翼のデモ隊を窓越しに見たときのイギリスのスパイマスターのデヴローへの言葉】

連中はけっして君達アメリカ人を許さないよ。
 
・・・きみの国アメリカは常に非難の対象になる。彼らが貧しいのにきみたちが豊かだからさ、彼らは弱いのにきみらは強い、彼らは怠惰なのにきみらは活動的だ、彼らは保守的なのにきみらは進取の気性に富む、彼らは戸惑い立ち止まっているのにきみらは開明的で創意工夫を怠らない、彼らが座って待つタイプなのにきみらはなせばなる派で、彼らは発育を阻害されていじけているのにきみらは野放図に伸び続ける。
 
立ち上がって叫ぶ煽動家が一人いればじゅうぶんだ―「今アメリカが所有しているものはすべて、彼らがおまえたちから盗んだものだ」と叫べは、彼らはそれを信じてしまう。
 
・・・その怒りが憎悪となり、憎悪はターゲットを必要とする。第三世界の労働者階級はべつにきみらを憎んではいない。憎悪に燃えているのは似非インテリだ。彼らがきみたちを許すことは絶対ない。許せば自分を告発しなければならないからだ。まあ、今までのところ、彼らの憎悪は、それを発射する武器を欠いている。だが、いつかその武器を獲得するだろう。その暁には、きみらも闘わなくてはならない。闘わなければ死んでしまう。何十人という単位ではなくて、何千何万という単位でね。