『新世紀メディア論』   小林弘人 著

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に

新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に



【所感】
・ネット時代のメディアについて、一般の人向けに書かれた本。非常に読みやすい一冊。ユーザーサイドの視点というよりは、業界の人、特に出版系とか文字系の人の視点で書かれてる感じ強し。旧来型(マス)メディア業界にいる頭の古いオジサン権力者、とか、メディア業界への就職を考えてる若者とか、にメッセージを送ってる印象。
 
・感覚的には、2006年頃に読む「ウェブ進化論」に似てる。今、起きてる変化は、こーいう事だったのかぁ、という読後感が似てる。感覚として、その変化を感じてて、その感じてる変化を言葉にすると、こういう表現になるのね、という感じ。2006年頃のネット全体について、纏まってる「ウェブ進化論」と、2009年頃のメディアに絞った本書。「メディア進化論」ってタイトルで、新書で出せば、すげー、売れたんじゃないかな。
 
・以前、「ウェブ進化論」を読んだ時は、感覚として認識してたことを明確な言葉にしてくれた感動が半分と、それって、そーいうことだったのね、と新に理解できたこと半分だったけど、今回は、一歩進んで、ほぼ100%の内容について、自分が考えてたことを、本書で文字に纏めてくれてる印象。プロの人と同じレベルまで考えが及ぶようになってきた、と、日々の勉強の甲斐があったと、変な満足感。次は、自分で、それを文字にするところまで、やってみたいところ。
 
・敢えて文句を言うなれば、1.”論”というタイトルの割りには、全体の論が見えにくい。構成とか章立てとか、もう一工夫あると嬉しかった。2.消費者サイドの視点、消費者にとって、メディアとは何?その価値は何?、みたいな掘り下げ欲しかった。あたりか。


   
【帯にあった記述から】

・多くの人が定義する「出版」はすでに死滅した概念であり、再定義の必要がある
・企業活動におけるメディア戦略は、「PR」よりも「ストーリーの提供」に
・グーグルやアップルの成長要因は、徹底してユーザーを向いて仕事をしてきたこと
・凡人サラリーマン出版人のつくりメディアよりも、社会経験豊富な専門家の送り出すメディアの方が魅力的
・「ネット脳死状態」の大出版社に「宝の山」は埋もれている
・雑誌を軸にしたメディアビジネスの要諦は「小さなテーマ・大きな利益」に変遷
・ニッチな分野ほどビジネスモデルも多岐にわたる
・「既存メディアが本来果たすべきであった進化を奪取せよ」の法則
・多くの出版社の間違いは、コンテンツだけを与えればネット上でもメディアが成立すると思っていること
・クリエイティブの原点は共感の創出に、雑誌の本質はコミュニティの創出にある

   
【目次】

 L01 あなたの知っている「出版」は21世紀の「出版」を指さない
      ・いろんな組織がメディア化している
      ・あなたの知る「出版」は、すでに死んでいる
      ・「出版業界」とは「取次制度依拠業界」に過ぎない
      ・コミュニティにこそ価値は宿る
      ・「誰でもどこでもメディア環境」時代に
 
 L02 「注目」資本主義は企業広報を変えた
      ・アテンションこそメディアの通貨
      ・「注目」の争奪戦はより苛烈に
      ・企業のメディア戦略は「ストーリーの提供」へ
 
 L03 ストーリーの提供で価値を創出する
      ・カギは「ストーリーの共有と創出」
      ・マスではなく「インフルエンサー」を狙え
      ・「メディア力」とはストーリーテラーの能力
 
 L04 デジタル化で消えてゆくのは雑誌・書籍・新聞のどれ?
      ・新聞的・雑誌的なるものが進化したその先
      ・雑誌の価値はそれを取り巻くコミュニティに
      ・コンテンツはクラウド化する
 
 L05 雑誌の本質とは何か?
      ・機能提供型メディアとウェブの親和性
      ・ライフスタイルの数だけ雑誌があっていい
      ・情報のフローの鮮度が重要
 
 L06 無人メディアの台頭と新しい編集の役割
      ・編集とは情報の「ハブ」づくりである
      ・消費者の力をアグリゲートする
      ・無人版誰でもメディアの急先鋒
      ・編集者に必須のスキルは不変
   
 L07 既存メディアの進化を奪う 
      ・「誰でもメディア」の競合は「誰でも」
      ・スクリーニング能力が編集力に
 
 L08 名もなき個人がメディアの成功者になるには?(その1)− マジックミドルがカギを握る
      ・ロングテールをメディア分布に見立てると
      ・「誰でもメディア」の可能性は「トルソー」にこそある
      ・モンスター・ブログ「Boing Boing
      ・ウェブメディアの先駆者「Suck.com」
 
 L09 名もなき個人がメディアの成功者になるには?(その2)− 人はコンセプトにお金を投じる
      ・プラットフォーム選択は最大の難関
      ・新しい文法の発見こそメディアの醍醐味
      ・メディアがあなたを選ぶのだ
 
 L10 メディアが変わり、情報の届け方も変わった
      ・個の声を届かせることがカギ
      ・クリエイティブの原点は共感の創出
      ・運営者の「熱さ」から共感が生まれる
      ・クロスメディア・キャンペーンの成功事例
      ・肝心なのはコンテンツの文脈を編むこと
 
 L11 個人ブログはメディアか?
      ・自分自身をメディア化する
      ・現行の著名人ブログはまだ発展途上
  
 L12 ブログ時代の新しいメディア・ビジネス
      ・粗雑品のカゴのなかに掘り出し物が
      ・最高の原石を仕込むことこそ編集者の仕事
      ・オンデマンド出版にもブレイクスルーの可能性が
      ・メディアのS字カーブを知れ!
      ・信じていないことには始まらない!
 
 L13 地域コンテンツというキラータイトル
      ・グローバル+ローカル=「グローカル
      ・分散型メディア・シンジケーション
      ・地域紙のビジネスモデルが奪取される
   
 L14 ネットでブランド・メディアを確立するには?
      ・ネットメディアは「忍耐と努力」の世界
      ・メディアにおける実存主義
      ・ネットのクオリティメディア、成立の条件
      ・「ネット脳死状態」の既存メディアに宝の山が
      ・メディア人は「万年素人」であるべき
 
 L15 立ち上げたら稼げるという幻想は捨てなさい
      ・技術革新がもたらす構造不況の可能性
      ・ウェブメディアは誰も儲からない?
      ・ウェブメディアにおけるM&Aの有効性
      ・フォロワーによるパクリ天国をまねく
   
 L16 情報のリサイクルや整理整頓による新種メディア台頭
      ・「張り子のメディア」でも成立するビジネスモデル
      ・奪取された進化をさらに奪取し返す
      ・これはコンテンツではない?
 
 L17 ニッチメディアがプロフェッショナル出版の主流になる
      ・メディア設計は読者の行動属性にあわせて
      ・テーマ・オリエンテッドなビジネス展開を
      ・仁義なきメディア・ウォーズを勝ち抜くために
  
 L18 ウェブメディアはターゲットキャストである
      ・ブロードキャストとターゲットキャストの違い
      ・紙の編集者が、そのままウェブメディアの編集者に適任ではない理由
  
 L19 ウェブメディア全盛時代の新セオリー
      ・ブロードキャストはネタを提供してナンボ
      ・「スォームこそ、王」の時代
   
 L20 スォーム時代のメディア・ルネッサンス
      ・トライブ(種族)のネットワークはワールドワイドに
      ・ステルス(隠密)型メディアの勃興期
  
 L21 ブティック・パブリッシャーとマスメディア(その1)− 出版社の新しいカタチ
      ・「進化」しないかぎり、もはや成長は見込めない
      ・ブティック・パブリッシャーにみる新しい出版社像
  
 L22 ブティック・パブリッシャーとマスメディア(その2)− 小さく生んで大きく育てる
      ・ブログの真髄は運営者オリエンテッドであること
      ・家内制メディアから、メディア帝国へ
    
 L23 ブティック・パブリッシャーとマスメディア(その3)− ビデオキャストの可能性
      ・テキストベースより格段にコストがかかる動画ブログ
      ・言語を超えたグローバルメディアの可能性
   
 L24 ブティック・パブリッシャーの換金化
      ・購買行動は「AIDMA」から「AISAS」へ
      ・レビュード・コムの先進性は検索エンジン対策にあり
      ・雑誌の本質は「コミュニティを生み出す力」
      ・必要な情報はウェブメディアの母
   
 L25 米国出版社のアプローチにみるウェブメディア(その1)− トレンドの波は3年周期に
      ・米国のオンラインメディア隆盛史
      ・ウェブメディア冬の時代から復活へ
  
 L26 米国出版社のアプローチにみるウェブメディア(その2)− 取り組みのバリエーション
      ・サイドビジネス
      ・顧客情報活用派
      ・パートナー協業派
      ・本格派(正常進化派?)
      ・買収派(力づく進化派)
  
 L27 「誰でもメディア」時代のジャーナリズム
      ・将来のプロフェッショナルを育てる視点を
      ・マスメディアの経営はもっと効率化できる
      ・ウェブメディアと既存マスコミとの連携も
      ・ジャーナリズムのオープンソース
      ・クラウドファンディングによるジャーナリズム
  
 L28 「誰でもメディア」時代を生き残るには?
      ・「メディア」はかつての「メディア」の形をしていない
      ・POD(プリント・オン・デマンド)が復活?
      ・「誰でもメディア」はオープンブックマネージメントが基本
      ・新しいメディア人よ、出よ!