『蝦夷地別件』 船戸与一 著
- 作者: 船戸与一
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【所感】
・かれこれ7つ目の船戸作品。めずらしくフィクション作家にはまってる。話は、フィクションとしても、設定されている舞台が、事実に近しいであろうということで、自分の中では、ノンフィクション的扱いというか、歴史のお勉強扱い。どこまでが事実で、どこからが創作か、知りたいところ。
・今回は、読了船戸作品の中で、初めて日本が舞台。江戸時代後半の蝦夷地、アイヌのクナシリ・メナシの戦いが舞台。いやー、これは、凄いんじゃないか。これまで読んだ7作の船戸作品の中では、間違いなく、一番。今まで読んだ小説でも、トップ3には入る。いやー、凄い。ちょっと放心状態かも。本書を読んで、初めて、船戸氏の凄さというか、物の見方のスケールの大きさを感じた気がする。
・これ、映画とかにならないかなぁ。映像でも見てみたい。時代考証とかを思うと、NHKあたりに、お金かけて、ガツーンとやって欲しいところ。
・江戸時代、特に、中期頃あたりは、知識が薄いところではあるのだけど、明治維新への前段階として、その萌芽があったわけで、政治的には、幕藩体制というか江戸時代の綻びであり、経済的には、貨幣経済というか、流通体制の整備というか商業資本の蓄積というか、そういった事が、わかりやすく理解できた感じ。
・蝦夷地とかアイヌとかも同様に、知識が少なくて、でも、本作の舞台、目梨地方は、一度、旅行に行ったことがあって、読みながら、旅行のときにみた景色から建物とか電線とか取り除いて思い出してみた次第。こんな事件が、日本にも、もとい、アイヌにもあったんだ。そーいえば、戊辰戦争で、幕府軍が最後に函館まで行くところで、松前藩って出てこないなぁ、とは思ってたけど、その前に、移封というか蝦夷地は幕府直轄になっていたんだね。「北の零年」のトヨエツの顔も、思い出した。
・明治維新への前段階としての「蝦夷地別件」、という意味では、非正規雇用問題の話とかは、現代の蝦夷地別件かもしれんなぁ、とか思った。もしかしたら、現在においては、これからもっと大きな事件が起きるのかもしれん。戦後体制(幕藩体制)の綻びや限界が露呈しているところ、とか、そのしわ寄せが、そんなことを気にしないで生きてる人達(アイヌや派遣)に直撃するような。外圧としても、欧米列強の開国要求とフラット化する世界、だし。
・アイヌと和人の構図は、アメリカのインディアンと白人、その後の黒人と白人とか、植民地と西欧列強とか、と似た印象。武力を背景とした侵略者と、現地住民の間に発生する感情や事件は、ある種、普遍性を感じる。疑問としては、為政者とか権力者は、なぜ、みんな横暴なんだろうか、という点。略奪の時代だったという事なのか、現代の、非正規雇用と正社員の構図とかを思うと、時代を超える普遍性も感じる。それが権力の力というか、権力が人を変えるという事なのか。武力に違いがあるから、一方的な構図になるのだけど、武力に差がなくても、やっぱ、異文化と異文化が交わるところは、一度、対立の構図が生まれる場合が多いようにも思う。無知が導く不幸なのか、自分を守るためには仕方が無い事なのか。。。
・激動の時代で、見る人と動く人、これ、あるよなぁ。動く人、動ける人、俺も、羨ましいと思うし、憧れる。この時点で、俺は、動けない人なんだろーなぁ。
【関連リンク】
Wikipedia クナシリ・メナシの戦い