『ミカドの肖像』   猪瀬直樹 著

ミカドの肖像〈上〉 (新潮文庫)

ミカドの肖像〈上〉 (新潮文庫)

ミカドの肖像〈下〉 (新潮文庫)

ミカドの肖像〈下〉 (新潮文庫)


【所感】
・あんまり深い理由なく手にした一冊。猪瀬さん、よくメディアに出て来るけど、作品は読んだことなかったなぁ、とか、天皇関係の本も読んだことなかったなぁ、とか、聞いたことあるけど食べたことないから、食ってみるか的。
 
天皇家とか皇室というテーマを、いくつかの切り口で、インタビューや文献もふまえた詳細なレポートといった内容。
 
・第一部は、”プリンス”と称して、内の視点というか、国内の視点。日中戦争・太平洋戦争で断絶しているように見える現代史の源流が、明治・大正・昭和初期に垣間見えるというか、浮き彫りになってくる内容。とりわけ、ビジネスや都市といった側面から文化や価値観といった点で、面白かった。戦後の高度経済成長の原動力が、戦前に蓄積された社会資本にあった、とか、戦後55年体制や官僚主導政治の原形が、戦前に構築されていた、とか、経済史や政治史の面で、戦前からの一連性を指摘する話は聞いたことがあったけど、同様に、文化や価値観みたいなところでも、戦後文化や価値観の原形が、戦前から、正確には、大正期あたりから、存在していたというか、大正期に萌芽していたというのは、嬉しい確認。輪廻として考えると、次の時代の文化や価値観の萌芽は、既に、今にあるのかもしれん。いや、既にあるという前提で今を見るのが楽しい感じか。
 
・第二部は、”ミカド”と称して、外の視点というか、海外との接点というか、世界の中の日本とか、世界の中のミカドという切り口。”ミカド”という単語が、結構、海外で流通していることに驚き。
 
・第三部は、”天皇”と称して、天皇制を見るために、映し鏡として、いくつかの鏡を紹介。
 
・近現代の歴史についての基礎知識が無いと、本書を読むのは、結構辛いかも。まー、近現代の歴史についての基礎知識が無い人が、本書を読むことは無いだろうけど。かつ、天皇制自体の基本的な内容や変遷を求める人にとっては、期待外れか。
 
・猪瀬さん、テレビとかだと作家として紹介されてて、でも、道路公団の委員とかになってたり、副都知事になってたり、???だったけど、本書を読んで納得。本書でも、アメリカにミカドという街があると聞けば、アメリカへ行ってみたり、イタリアに明治天皇肖像画を書いたお雇い外国人の名を冠した美術館があると聞けば、イタリアへ行ってみたり、その行動力や現場主義に始まり、なんというか、論文っぽい内容。定義の問題だけど、いわゆる作家と言うよりは、研究者とか編集者といった印象、強し。天皇制を考えるのに、天皇制自体を突き詰めるのではなく、複数の異なる受け手側をそれぞれ丹念に見ていくことで、結果的に天皇天皇制が見えてくるという手法とかも鋭い。



【目次】

プロローグ −デュオMIKADOとの対話
       禁忌1 東京海上ビルの忘れられた冒険
       禁忌2 原宿宮廷ホームのブラックユーモア
 
第 1部 プリンスホテルの謎
       第 1章 ブランドとしての皇族
       第 2章 土地収奪のからくり
       第 3章 天皇裕仁のゴルフコース
       第 4章 避暑地軽井沢と八瀬童子
       第 5章 修羅としての「大衆」
 
第 2部 歌劇ミカドをめぐる旅
       第 6章 ミシガン州ミカド町へ
       第 7章 ミカドゲームと残酷日本
       第 8章 西洋人の日本観と歌劇ミカド
       第 9章 世紀末の旅芸人たち
       第10章 海を渡ったトコトンヤレ節
 
第 3部 心象風景のなかの天皇
       第11章 天皇崩御と世界の反応
       第12章 つくられた御真影
       第13章 ジェノヴァから来た男
       第14章  三島由紀夫の風景
       第15章 複製技術革命の時代
 
エピローグ 禁忌Xn 「天皇安保体制」幻想