『日本の盛衰 近代百年から知価社会を展望する』   堺屋太一 著

【所感】
・2002年の本。でも、「第8章 日本経済の今」、「第9章 今、何をすべきか」、あたりは、今も、なーんも変わっていないなぁ。「第10章 「日本知価社会」への道」あたりの変化とか方向性は、益々というか徐々にというか、より進んできたなぁ、という感想。ネット業界とか、知価社会の流れでみると納得する部分は大きい。
・直感的には、堺屋さんの「東大講義録」と似たようなというか同じというか再編集したような内容。特段の比較をしてないから違いはあると思うけど。良く言えば、堺屋さんの主張が一貫しててブレが無い、悪く言えば、同じ内容で何冊も本書いて儲けなくてもいいんじゃね、という感じ、か。違いと探すと、(1)「東大講義録」の方が、分厚いだけあって、図が多い、とか、(2)歴史の見方みたいなことまで言及があって深いというか詳しい感じ、とか、(3)知価社会というコンセプトの解説も少なめ。そういう意味では、タイトル通りの「日本の盛衰」として、日本の良かったときと悪くなった・悪くなっている今とを比較し、また、それぞれに至った要因や経緯を解説してくれてる一冊、か。
・まー、一言で言えば、堺屋さん流日本経済史という一冊。ほかの人の日本経済史をちゃんと読んでないので、断言しにくいけど、時の経済を構成する正義とか文化とか体制とか時代の雰囲気とかにまで言及してくれてる経済史本は、あんまり無いのではないか、と想像する次第。
・日本経済史系の本との違いというか、日本経済史を語る上で、堺屋さんが、その前提条件に丹念に触れてるのは、結局、第9章・第10章にある”で、どうする?”とか、”で、どうしたら良いの?”ということを語る為で、この点が、過去の分析や解説で終ってしまうことの多い経済史本との違いか。こっちを主題とするならば、本書を経済史本と括ってしまってはいけないのかもしれない。



【目次】

    序  章 日本の没落
    第 1章 近代日本のDNA − 黒船から産業革命
    第 2章 二十世紀前半の苦悶 − 模倣の限界から官僚統制へ
    第 3章 「戦後」とは何か − 新しい正義と古い体制
    第 4章 邁進する日本経済 − 長い高度成長の時代
    第 5章 最適工業社会の完成 − ジャパン・アズ・ナンバーワン
    第 6章 文明の転換点 − 日本と世界のすれ違い
    第 7章 失われた十年 − 「バブル」とは何だったのか

    第 8章 日本経済の今
            日本経済の現状は「極めて悪い」
            上昇する失業率、低下する利益率
            下落に転じた物価と賃金
            「過去」が「将来」を支配するデフレ
            機能不全の金融
            問題は「金融思想」にある
            財政赤字を必要とする経済構造
            東京集中型経済は限界
            財政均衡が不況を招く経済構造
            お金で得られる楽しみと誇りが少ない
            国際的地位の低下 − 魅力のない日本
            日本の「総退却」が始まっている

    第 9章 今、何をすべきか
            「改革、いまだ成功せず」
            仕方、仕掛け、仕組みの改革
            民間の改革も仕方と仕組み
            今、必要なのは「革命」だ
            世界を吹き抜けた知価革命の嵐
            「大競争時代」が始まる
            日本「知価革命」への道 − まず「官僚文化」の追放を
            人間を無能にする時代遅れの文化
            「負の資産」の完全処理を
            公共サービスの価格は市場価格で決めよ
            「終戦処理費」100兆円は避けられない
            人事の刷新 − 受け皿は必ず出て来る
            日本は豊かだ − 発想さえ変えれば

    第10章 「日本知価社会」への道
            知価革命が始まった − 情報化と主観化
            コモディティとブランド
            知価が成長と蓄積の源泉となる
            労働力と生産手段の合体化
            知識と感性が生産手段
            技術と組織と人口移動
            「歩いて暮らせる街」へ
            知価は可変的で予測不能
            知価は官僚規制に適さない
            政府は小さく、市場は自由に
            人口は減る − だが経済と文化は発展し得る