『格差社会の結末 富裕層の傲慢・貧困層の怠慢』   中野雅至 著

 

【所感】
・2006年8月の本。著者は、元労働省官僚で、執筆時大学の先生。本書の対象となる格差は、賃金とか所得の格差で、職業の格差・固定化ではない、とのこと。
 
・なんというか、サーっと、読み流した印象として、高度経済成長時の総中流社会が理想で、今時の手法で、どうやって回帰するか、みたいな感じか。分配の話が多いからかも。官僚で大学の先生だから、当然だけど。
 
・こうすべき、という案については、その期待できる効果について、数字を見せて欲しかった。例えば、高所得者増税で、○%にあげるといくらの歳入増になる、とか、相続税を○%にあげるといくらの歳入増になる、とか。そういう意味では、提案の書というよりは、分析の書とも言える。分析のところは、図とか数字、多かった。


 
格差社会
・昨今、格差社会、と言われてるけど、本書を読んだ印象としては、高額所得者がより高額所得になり、そうでない人がより低額所得になって、格差が広がってるという平均的な拡大というよりは、中流所得者が落ちていって、格差が広がってる、というか、国家が裕福だった時代、経済が成長していた時代、世界経済が分断されていた時代に、国内の分配機能のおかげで、中流化していた層が、特殊要因が無くなった結果、本来の所得に落ち着いてきた、という事と理解。
 
・誰が、格差社会とか言い出したんだろ。中流崩壊、とか、低所得化、って言えばいいのに。曖昧でわかりにくい。議論の度に、その定義を確認しないといけない単語が流行るのって、よくないね。たぶん、本来なら、一緒に落ちていくべき人達が、何らかの岩場とか大樹とかにしがみついてて、なかなか落ちてこなくて、そういった人達に対する嫉みというか怨嗟というか軽蔑とか、そんな社会的感情が、そこにあるのかも。
 
・経済のグローバル化が進んだ結果、賃金が落ちているなら、同様に、物価も落ちるわけで、現にスーパーとか行くと、ここ20年の物価って、何だったんだ、って言いたくなるくらい、安いし。問題は、賃金の下落と同様に落ちていかない家賃とか税金とか公共料金とか教育費にあるような気がする。こんだけ物価がさがってるんだから、税金も下がっていんじゃね?とも思う。
 
・結局、みんな金が無いんだから、というか、世界物価に収斂するまで、あらゆる価格は下がっていくんだから、無い金とか減る金の分配を考えるよりは、無い金で楽しく暮らしていけるコスト構造の社会にする方が、世界物価レベルの社会コストにする方が、早い気がする。とりあえず、あった方がいいよね、くらいの公的機関やサービスは、全部やめてみる、とか。国民投票して、無くなると困る、の票が、1000万票以上集まらないものは、止める、とか。
 
・もちろん、コスト構造のスリム化と平行して、外貨獲得産業の強化というか成長というか育成というか、そっちはそっちでやるとして。でも、こっちは、民間主導になるか。


 
【目次】

     第1章 格差社会は「政災」か、それとも「天災」か
 
     第2章 本当に小泉政権は格差拡大の真犯人なのか
 
     第3章 「格差容認」から「格差への怒り」に変わるXデーの条件とは
 
     第4章 富裕層は追いつめられるのか − 「小さな政府路線」の持続性 −
 
     第5章 格差社会への対応としてどのような政策が実行されるのか
 
     第6章 「経済の法則」と「社会の法則」の切り分けを − 日本社会に信頼関係を再び −
           格差社会の結末をバラ色に変えるため、経済と社会の切り分けを
           すべては信頼から始まる − カリフォルニア米と失明の意外な関係 −
           「ポスト・バブルの精神」が日本をダメにした
           ポスト・バブルの終焉とトラストの基盤になる個人の自立意識
           トラストは短期間では生まれない
           地方分権と貢献社会の確立、そして何よりも良心ある中間層の復活を