『東大講義録 ―文明を解く―』   堺屋 太一 著

東大講義録 ―文明を解く―

東大講義録 ―文明を解く―



 
・あまりに素晴らしすぎて、引用しすぎてもーた。第1部は、中学生くらいのときに、教科書にして欲しかった。

・で、第2部、知価社会は、いつ、どんな感じでやってくるのか、もう来てるという話なんだろうけど、その場にいると、ピンときにくいというか。

 
 
【目次】

  第 1回 ガイダンス 少し長めの自己紹介と三つの経済学派のこと

第1部 世界と日本の近代にいたる道

  第 2回 九〇年以降の日本の厳しい現実と人類の文明の軌跡
  第 3回 「安定から進歩へ」黒船のメッセージを受け入れた日本人
  第 4回 「坂の上の雲」に向かっていった明治維新の苦悶
  第 5回 日本が選んだのは官僚統制と「昭和十六年体制」
  第 6回 戦後とは何か? − 新しい正義と55年体制
  第 7回 邁進する70年代の日本経済 − 高度成長と日本式経営 

第2部 知価社会の構造分析

  第 8回 知価革命で何が起こったか
  第 9回 「近代」の常識が衰退した、バブルとその後遺症
  第10回 知価の特性―可変的、不測的、貯蔵不可
  第11回 知価は普及する
  第12回 知価社会における組織と帰属、そして好縁社会の予兆

 
【この本を受講される方へ】

・近代工業社会を超えて  文明の由来と未来を語ろう
・本書は、1980年以降に生まれた学生たちを対象に、2002年4月から7月にかけて、東京大学先端科学技術研究センターにおいて行った講義録である。
・本講義の目的は、人類の文明の由来と未来を解明することである。
・近代工業社会の終焉 ⇒ 新しい社会 知価社会の到来

  
【第1回 ガイダンス 少し長めの自己紹介と三つの経済学派のこと】

★沖縄開発の話
・当時の佐藤首相に、沖縄の復帰は、どうなったら成功なのか、と聞いたら、総理は、沖縄の人口を減らすな、といった。
・アラン・フォーバス氏、戦後最大のツーリズム。プロデューサーのアドバイス、観光開発に、道路とか空港とかホテルは、二の次。あれがあるから、沖縄にいきたい、というのを作れ。第1はヒストリー、歴史、第2はフィクション、物語、第三に、リズム&テイスト、音楽と料理、第4に、ガール&ギャンブル、第5に、サイトシーイング、景色、第六に、ショッピングで、このうち3つを揃えよ!
 
★講座では、日本の近代工業社会の盛衰を分析し、知価社会の構造を解明します
・本講座の最大の目的は、近代工業社会の次の時代 知価社会(Kowledge Value Society)の解明。
・70年代末、「脱工業社会(Post Industrial Society)」ダニエル・ベル著が流行。消極的概念。より積極的な解明、「知価革命」著。今日までの経済学は基本的に近代工業社会だけを対象に分析しているため、知価社会に応用できない。
・Ⅰ部:「世界と日本の近代にいたる道」、つまり人類が近代工業社会を築き上げるまでの変遷を説明。経済学は近代工業社会だけを対象としているため、文明史的な視点が劣弱。また、この中で、日本経済の近代化、規格大量生産の確立に特に重点を置く。
・Ⅱ部:知価社会の構造を分析。知価革命における諸現象を分析し、原因を究明した上で、その原理を導き出す。その中で、何が文明の犯人かを探り当て、知価社会の姿を明確にする。
 
★現在、経済学には3つの学派がある − 私はニューパラダイム派です。
1.新古典派:学術世界で圧倒的な主流を占める。リカード以来の理論をベース。近代工業社会の理論が今も通る、という発想の学派。
2.ニューエコノミー派:1990年代の中頃から特にアメリカにおいて興隆した。情報産業の発展によって世の中は大きく前進した、従って、これまでの近代工業社会が一段と成長して、高度産業社会または高度情報社会になり、その結果として景気変動が小さくなる、と主張。しかし、2001年の後半になって大きく経済が落ち込んだことで勢いを失う。少数なれど、実務をやってる人、シンクタンクの人などの間では非常に勢力が強い。
3.ニューパラダイム派:近代工業社会は終わり、世の中のパラダイムが変わった。今はじまっているのは次の新しい社会、知価社会だ、という学派。提唱者、堺屋太一、賛同者 B・J・パイン・ジュニア、ジェームス・ギルモア、ジョージ・ギルダーアルビン・トフラー。この学派は、近代工業社会は終わった、したがって、今はじまろうとしているのは、近代工業社会のより高度な状況などではなく、知価社会の初期であると主張。だから、近代工業社会の延長線上で現状を分析することはできない。近代工業社会で主流となった物の値打ち、あるいはサービスの値打ちではなく、知恵の値打ち=「知価」が経済の成長と資本の蓄積の主要な源泉になっている。そうであれば、「知価」“Kowledge Value”の振る舞いというものを研究しなければならない。
・「知価社会」では、どのような社会構造と体質、気質が生まれるのだろうか、この講座では、経済、経営、組織、都市構造の4面から追究。

 
 
【第2回 九〇年以降の日本の厳しい現実と人類の文明の軌跡】

・1990年を境として日本経済の流れは大きく変わりました。では、一体、何がそれを起こしたのか。何が日本経済をこれほど急激に悪化させたのか。これは、ちょっとやそっとの話ではないのです。人類の文明が大きく変化したのに対して、日本が立ち遅れている、ということだと私は思うのです。 この歴史的な跡付けをするために、これからしばらくの間、人類の文明がいかにして起こり、いかに変化してきたか、この話を丹念に述べたいと思います。

  
1.始代
・文明の始まりを農業のはじまったとき、とします。
・はじまったばかりの農業は、農耕というにはあまりにも素朴なもの=可能な土地が少なく収穫も少ない、物不足の時代
・働くことよりも、神の意思に大きく左右される生活、社会 → 象徴的・抽象的な神への興味
・収穫が少ない → 全部食べる → 個人の私有財産がない=経済的な階級がない
・でも、国家権力は強大。国家権力の原点は、3つの機能(防衛・徴税・治安と司法)です。
・都市(村落)国家の第4の役割は種子の確保でしょう。
・国家権力を強化するために、祭祀と血縁の強調
・限られた農業可能地にひとつの村落国家が成立
 

2.古代
・農業革命=土地改良技術を境に、時代は「古代」へ入ります。
・土地は広い方がいい、都市国家が領域国家へ。
・収穫が増えて私有財産、階級が発生、余剰清算を域外との交易へ、交易路を保護するため帝国へ。
・国家の役割も複雑化。階級制、奴隷制、公共事業も。
・物財を欲するものは、写実美術を生む。写実すると、科学する心は技術進歩をはぐくみます。
・科学が発展すると技術が進歩して、奴隷をつかった規格大量生産時代へ。
古代文明が発展すると、世界の人口は2.5億人を突破するまで増えた。古代とは、人口が急増し、生産力が猛烈に増大した時代。
・で、人口増大は環境問題を引き起こしました。まず、エネルギー=材木。生産量が増えると、猛烈な勢いで森林が伐採。気候変化もあったか。紀元前後には、文明先進地域では、ことごとく森林が減少。
・紀元前2世紀から紀元後2世紀の間に、文明先進地域の乾燥が進み、森林が減少しました。
・木を伐ったあと、羊を放牧した。人口が増えてどんどん焼畑農業をし、材木を伐って燃料にして、そのあとに羊を放すと乾燥が大いに進む。
・結果、エネルギー不足へ。これ以上は、生産量が増えない。物財が多いことに幸せを感じる人々が、生産量が増えないと感じる → 家族の数を減らして一人当たりの物財を増やす。農業や手工業なら家族が多ければ、生産量が増えるけど。。。結果、古代の末期には、性道徳が退廃。で、人口がガタっと減る。
・人口が減ると、人手不足を補うために周辺の発展途上地域からの移民が、はじめは奴隷として、次は傭兵としてやってきて、人口が少ないから、子孫が定住するようになって、奴隷から農奴へ、そして流民になりました。で、先進地域の人口構成が変わって、発展途上地域の民族が多数になり、軍事や加工業の中核を担います。こうした人口構成の変化が、やがて大規模な軍事力をもつ部族集団の移動を誘発します。ゲルマン民族の大移動とか、五胡十六国の乱とか。
・人間には、足りない物を節約するのは正しいと信じる倫理観を生み、豊富にある物を潤沢に使うのはカッコいいと考える美意識を育てる、「優しい情知」があります。

  
3.中世
・中世は、物財に関心を持たない時代です。古代は近代と同じで、物財に興味をもった文明をつくり、先進国とは物財が豊富なところのこと。しかし、その物財が少なくなった。さぁ、困ったという閉塞感が広まったときに、物財に興味をもたない発展途上国の文化が入ってくると、たいへん神聖な感じがします。sこで、先進地域の人々が発展途上地域の宗教や思想に傾斜していく。これが、古代から中世への転換点。
形而上学的な時代が到来しました。
・物に関心がない時代は、組織も国家機構もあいまいです。

 
4.近世
・宋で、エネルギー危機から脱出すると、再び写実文化の時代がはじまった。
・文化が花開いた10〜12世紀の中国の宋代を「亜近代」と呼びます。でも、熱エネルギーを力エネルギーに変えられなかった。
・世界がほぼ同時に「近世」に向かいます。この時代に一斉に世界中で文明が開けて、大帝王が生まれます。これは技術の進歩が起こした当然の帰結。技術が進歩して鉄砲が大量につくれるようになると、個人的な勇気や才覚よりも、兵士の数と装備の量で勝負が決まるようになった。つまり、資金がないと戦争に勝てない。だから、大帝王、という話。

 
 
【第3回 「安定から進歩へ」黒船のメッセージを受け入れた日本人】

・始代の場当たり的な統治から、古代には成文法の組織国家になりました
古代文明の先進地域は乾燥化し、人類は物財供給の限界を感じました
・古代末期には、発展途上地域の文化や思想が先進地域に流入しました
・宗教の支配が強い社会とは、社会主観の社会です。科学する心が発達せず、空想的な議論ばかりになります
・世界史に「近世」という時代区分を認定すべきでしょう
・人間の知識を中心に考えよう、という主知主義が起こりました
ジンギス・カンによって、「世界」がはじめて認識されるようになりました
・十字軍の後、貿易が盛んになりました
・16世紀、日本では沖積平野の大開発がはじまりました
・物財増加のなかで人口が減少すれば、文化が強烈に発展する可能性があります
・写実美術から科学が生まれた。だが、技術につながらない。これが、近世の特徴です
・16世紀頃には西欧も中国も日本も大差がありませんでした
・日欧の間に進歩の差が生まれたのは、なぜでしょうか
・黒船は、「安定よりも進歩だ」というメッセージを送ってきました
徳川時代から明治、大正、昭和と、美意識と倫理観が大きく変わりました
・近代日本のDNAの正体を解明します


  第 4回 「坂の上の雲」に向かっていった明治維新の苦悶
  第 5回 日本が選んだのは官僚統制と「昭和十六年体制」
  第 6回 戦後とは何か? − 新しい正義と55年体制
  第 7回 邁進する70年代の日本経済 − 高度成長と日本式経営 

第2部 知価社会の構造分析

  第 8回 知価革命で何が起こったか
  第 9回 「近代」の常識が衰退した、バブルとその後遺症
  第10回 知価の特性―可変的、不測的、貯蔵不可
  第11回 知価は普及する
  第12回 知価社会における組織と帰属、そして好縁社会の予兆